ドラマや映画の撮影現場では演出家や役者によって、セリフの変更や、アドリブのセリフが入れられることがある。
これに対し、寛容な脚本家もいれば、それをよしとしない脚本家もいる。
山田太一氏はセリフを一字一句変えさせない後者の脚本家として有名だ。
氏曰く。

「各俳優が言いやすいように（脚本を）言い替えて、自分のアイディアのセリフを加えたりしていったら、作品はとりとめないものになってしまう。セリフは宿命で、その不自由さの中でこそ、俳優は自由を手にするものだと思っています」
「セリフは1つ1つに気を遣って（書いて）います。その代わり、アドリブは言うなと。アドリブを1人許せば、他の人がもっと言いたいとなり、収拾がつかなくなってくる」

実際、テレビドラマ「さくらの唄」ではディレクターの久世光彦や樹木希林たちが現場で脚本にないアドリブをするので、山田氏は強く抗議している。

では、山田氏は台詞を変更したことがないかというと、そうでもない。

「夢に見た日々」というドラマの脚本本のあとがきで、山田氏は、こう書いている。

「このドラマに登場する「関本慎作」にかつての「男らしさ」の要件をなるべくなくして、尚この男がどのくらい魅力的であり得るかという試みをこめたのも、この作品の野心の一つでした。実を言うと、はじめはその度が過ぎて、千葉真一さんから「どうしても、こんな魅力のない男を演じることは出来ない」と抗議を受けた。もっともな意見で、私は受け入れた。それでもまだ、おしゃべりだったり、嘘をついてしまったり、自分を信じられなかったり、幻想に逃れたがったり、本当の千葉さんとは全然違う人物になっており、それを見事に演じ通して下さったことに深い敬意と感謝の気持ちを抱いている。それは桃井かおりさんもそうで、桃井さんは私に抗議をするというようなことはなさらなかったが、人物の動きが理解できないで悩んでいると、プロデューサーの近藤さんから何度か聞いた。ただし、ライターには言わないでくれ、と。どんな不自然な行動であれ、私はこの脚本のまま克服してみせる、と。胸を打たれて、一度だけ私は手を入れた。無論、ただ胸を打たれただけではない。自分でも薄氷を踏む思いで書いた部分だった。ありきたりの動きをさせたくないという気持ちが、たしかに度が過ぎていた。あきらかにおかげで脚本はよくなったと思う」

東京でフリーの脚本家となった倉本氏は、NHK大河ドラマ「勝海舟」の制作に関与した。
その際、役者の台詞の言い回しにも口を出してしまっていたことから制作スタッフと大ゲンカとなり、脚本を途中降板することになった。
この件について週刊誌「ヤングレディ」に取材を受けたが、その雑誌記事の広告の見出しが「倉本聰氏、「勝海舟」を内部から爆弾発言」と出てしまった。
これにより、20人、30人からつるし上げられ、その日に千歳空港へ飛び、そのまま北海道札幌市に転居したのだった。
そういう背景の中「北の国から」は生まれた。
倉本氏がもしトラブルを起こしていなかったら、北海道には転居していなかったろうし、「北の国」からも生まれていなかっただろう。

「踊る大捜査線」の構想段階では、すでに引退したベテラン刑事和久の娘をすみれ（監察医）に設定し、和久宅に居候する青島刑事と恋愛させる案が存在していた。
そして、青島と雪乃、室井とすみれの二本立てでの恋愛路線、青島と雪乃とすみれの三角関係も構想されていた（実際、4話までには青島と雪乃間での恋愛に発展しそうな伏線や、すみれが青島に惹かれてゆく描写もちりばめられている。
この恋愛ドラマ路線は、第1話が放映され視聴率が出た時点で、亀山プロデューサーの判断により取りやめが決定された。このとき第4話までは脱稿していたので第5話からのプロットが恋愛の要素を排したものに変更され、以後は警察ドラマとしての視点に重点を置いていくこととなったのだった。
このように、テレビドラマの場合、視聴率のよって、脚本が変更されることある。