個人対個人の民事裁判の場合、原告側とも被告側とも利害関係がない裁判官は比較的公正な判決を下せる。
しかし、国相手の裁判（行政訴訟）の場合、多くの裁判官は国に有利な判決を下す。
何故なら、裁判官にとって、国は裁判官の人事権を握っているという意味での利害関係者に他ならないからだ。
国側に不利な判決を出そうものなら、裁判官は簡単に左遷させられてしまう現実がある。
最も分かりやすい例は原発裁判である。
高浜原発再稼働に「差し止め仮処分」を下した樋口裁判長は「極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題とを並べた議論の当否を判断すること自体、法的には許されない」という正論を堂々と述べ、国民からは圧倒的な支持を得たが、判決後、あっさりと左遷させられた（その入れ替わりとして原発容認派の裁判官が送り込まれ、樋口裁判長の「差し止め仮処分」は、これまたあっさりとひっくり返されてしまった。国はこういうあからさまな政治介入を平気で行う）。
裁判官の人事権を国家権力（具体的には最高裁長官（内閣が任命）の意を受けた最高裁事務総局）から影響を受けない組織に移さない限り、裁判所が公平な判決を下すことはできない（そのような状況の中、左遷覚悟で、「差し止め仮処分」を下した樋口裁判長のような高潔な判事が少数だがいることも事実）

発表されている統計データによると、刑事事件で起訴された場合の有罪率は99％（アメリカの場合70％）。
これは100件起訴されたら、そのうち1件しか無罪判決を勝ち取れないということ。
これは検察が無罪となる可能性のある事件は、はなから起訴に持ち込まず「不起訴処分」にすることに起因する（検察は有罪に持ち込める自信がある時のみ起訴する）。
これに加え、裁判官の事情もある。
起訴したものに無罪判決を出し、その後、控訴され上級審で逆転されたら、裁判官は自分の経歴に傷がつくのではないか、と心配になる。そこで、有罪か無罪か迷った時は、有罪にしておけば、その恐れが少なくなる、と計算するところもある。
結果、有罪率99％という数字ができあがる。
どんな事件であれ「無罪判決」が出た時、それがニュースになるのは、それがレアケースだからなのだ。
元裁判官の木谷明氏は、裁判官の現状について、以下のように述べている。
「強大な国家権力を相手に裁判所が裁判をしようと思うと、それ自体圧力を感じる、被告人の言うことは嘘だ、検事の言うことは大体正しいと頑迷に信じ込んでいる裁判官も結構な割合でいる。私は、迷信型と呼んでいるんですけど。起訴された以上は有罪だと思い込んじゃう裁判官ですね。優柔不断で右顧左眄型の裁判官が半分以上います。熟慮断行型の裁判官が1割。残りは頑迷、迷信型で、何を言ってもダメ（＝有罪）。優柔不断、右顧左眄型の裁判官にいかに正しい判決をしてもらうかが勝負なんですね。ただこの人たちは決断力がないですから、おかしいなと思いながらも、最後は検事の肩を持ってしまうということになりやすいんです。検事控訴がありますよね。控訴されると割と簡単にひっくり返されるんですよ、高裁で。そういう経験をしていると、自分は無罪だと思ったけれど破れたので、今度もまた失敗したくないという気持ちが働き易い。破れないような判決を書けばいいんですけど、そのためには大変な労力がいる。技術と能力が必要です。心あるけれど、技術と能力がない人が書いた無罪判決は簡単に破れる。だから難しいんですよ無罪判決というのは。やるんだったら高裁で破られないような判決を書かなきゃいけないんですよ。だけども、それは大変なんですね。普通の事件を処理するよりも何倍も時間と労力がかかるから、だんだんそうなるとやりたがらなくなるという傾向が出てきますね。（1割の熟慮断行型の裁判官は）裁判所ムラのなかでは、煙たがられますね。そんなややこしいことを言わなくてもいいじゃないかという雰囲気は感じられますね」（出典：ビデオニュース）

裁判官は判決文を書き、それを元に判決を下すのが仕事だと思われている。
しかし民事訴訟では結審以前に、裁判官が和解を勧めてくることがある。
もし裁判官の提示する和解案で双方が納得したら、その時点で裁判は終了となり（そもそも揉めているからこそ裁判になったわけで、揉め事がなくなったら裁判をつづける意味がなくなる）、裁判官の仕事も、一案件クリアーとなる。
実は判決文の作成作業は裁判官にとって骨の折れる仕事となっており（訴訟の内容によっては本一冊ほどの分量になることがある）、もし和解に誘導できたとしたら、判決文を書く必要がなくなるのだ。
よって、裁判官にとっては、和解による決着の方が、判決を下すまで裁判をつづけるよりも、随分と楽なのだ。
ちなみに日本の民事裁判での和解率は35％となっている。